公費解体に新たな選択肢を。
休眠預金が起点となった、復興モデルの転換

2024年度休眠預金
活用事業レポート

休眠預金活用事業

居住支援全国ネットワークは、休眠預金等活用事業※の一環として、「被災家屋・空き家等の調査および利活用事業」への資金支援(助成)を行いました。

「令和6年能登半島地震」※の発災後、急速に進む「公費解体」により能登の豊かな街並みが失われる危機の中、民間資金と行政がいかに連動し、現場に変化を起こしたのか。

本記事では石川県で数多くの能登半島復旧復興プロジェクトを指揮する浅野副知事と、現場で家屋保全に奔走した民間団体の副会長をお招きし、休眠預金が生み出した「官民連携」の軌跡を振り返りました。

能登で起きた施策の変遷と協働の成果を紐解くこの記事が、将来の災害に備える全国の自治体に向けた、実践的な「教訓」となることを願っています。

  • 休眠預金等活用事業:10年以上取引のない預金(休眠預金)などを、社会課題の解決や民間公益活動の促進のために活用する制度。指定活用団体(JANPIA)や資金分配団体を通じて、NPOや民間団体が取り組む子ども・若者支援、生活困難者支援、地域活性化、災害支援などの事業に対して助成金が交付されます。
  • 令和6年能登半島地震:2024年(令和6年)1月1日に石川県能登地方を震源として発生したマグニチュード7.6の大地震。石川県内で最大震度7を観測し、津波、大規模な火災、土砂災害、甚大な家屋倒壊やインフラの寸断など、能登半島を中心に広範囲にわたり深刻な被害をもたらしました。

鼎談参加者

浅野大介氏

浅野 大介氏

石川県 副知事

経済産業省出身。令和6年能登半島地震発災後に出向し、能登半島の復旧・復興に向けて、公費解体加速化、官民協働のまちづくりや農業基盤整備、事業再建支援を牽引。

浦淳氏

浦 淳氏

一般社団法人 能登復興建築人会議 副会長

建築家、(株)浦建築研究所代表。北陸のまちづくりに尽力し、発災後は同会議副会長として、現地建築物の調査や保全活動に奔走する。

立岡学氏

立岡 学氏

一般社団法人 居住支援全国ネットワーク (当時)事務局長理事

長年、被災地や生活困窮者の住まい支援に従事。本事業では休眠預金の助成元として、企画立案や実行団体の伴走支援を通して官民連携を後押しした。

五十嵐航

五十嵐 航

ファシリテーター
休眠預金事業 プログラムディレクター

地方行政や公益財団法人で、非営利組織への助成支援に長年従事し独立。本事業ではプログラムディレクターとして、休眠預金を活用した官民連携の事業推進を支援。

浅野大介氏・浦淳氏・立岡学氏による鼎談の様子

休眠預金を活用した「被災家屋・空き家等の調査および利活用事業」

建築の専門家による家屋調査と復興拠点としての利活用支援

本事業は、「令和6年能登半島地震」の被災地において、一般社団法人能登復興建築人会議などの実行団体が主体となって実施した支援プロジェクトです。

発災後、国の制度を背景とした「公費解体」※が急速に進められ、能登特有の豊かな文化や街並みが失われる危機に直面する中、休眠預金を活用し、能登復興建築人会議※が主体となって、「直せば使える被災家屋や空き家」の調査と利活用のためのアクションを展開しました。

現地では、「被災した自宅を直して使い続けたい」と希望する被災者が「解体か修繕か」と迷っていましたが、「公費解体には申請期限があるから急いで決めなければ自腹になる」という誤解が広がりました。また、被災者生活再建支援金の制度上「解体したほうが得だから解体せざるを得ない」という選択に落ち着き、解体が選ばれがちになる実態もありました。その一方で、能登半島では、復興を担う工事業者などの支援者や移住者、仮設住宅を退去した被災者のための「住まいの受け皿(賃貸住宅等)」が極めて不足していました。つまり一方で「住まいが足りない」と言いながら、一方で「壊さなくて良い住まいまで壊す」という矛盾した行動が進んでいました。

そこで本事業では、専門的な視点から家屋調査を行い、建物を解体するのではなく、被災者の住まいや民泊、支援者の活動拠点などとして利活用し、地域の復興と担い手確保につなげる取り組みを行っています。

この民間資金を活用した活動は、石川県が設置した官民協働の会議体「被災家屋活用推進タスクフォース」※と連動するなど、大きなムーブメントへと発展しました。

調査結果のデータベース化や事業者向け視察ツアーの実施にとどまらず、石川県の馳知事による「壊さず使おう」という異例の呼びかけや「公費解体を申請した後でも、解体工事の実施を留保することはできる」ことの明確化、さらには内閣府による仮設住宅の要件緩和(解体工事の実施を留保しても仮設住宅に住み続けられる柔軟な運用)など、国や県の公的制度をも動かす画期的な成果を生み出しています。

加速する公費解体と
「残したい」被災者の声
復興のジレンマの中で

被災地に暗い影を落とす瓦礫の山を一刻も早く撤去する

五十嵐:まずは、石川県が震災直後から被災家屋の「公費解体」を積極的に進めた経緯についてお聞かせください。

浅野:2024年の7月に石川県副知事に着任し、就任翌日から能登訪問を始めました。被災から約半年が経過していたにもかかわらず、押し潰された家屋の多くがそのまま残っている、被災直後からほぼ変わらない風景が広がっていました。経済産業省時代から熊本地震※を含め、数多くの被災地対応に関わってきた経験からも、能登の復旧の遅れを間近にして、強い焦りを感じました。

五十嵐:住民の方々の声はどのようなものでしたか?

浅野:特に印象的だったのが「仕事の帰り道に潰れた家々を見るたびに気が滅入る」「ベランダで夕方の空を見てビール飲むのが好きだったけど、潰れたお家が見えるのが悲しくて、もうできない」という声。それを聞いて、「この潰れた建物だらけの風景を、一刻も早く消し去らなければ」と痛感しました。

立岡:私も震災直後から県庁に入り、解体が進まない状況を目の当たりにしていました。道路が寸断されていたとはいえ、「こんなにも遅いのか」「プレイヤー(解体・工事業者など)が少なすぎる」と実感していたので、公費による解体加速の動きには、大いに納得していました。

被災家屋の利活用・公費解体問題をめぐる対談の様子

「公費解体」を巡って

五十嵐:自費解体と公費解体の違いも、スピード感に大きな影響を与えたとうかがっています。

浅野:その通りです。熊本地震などを振り返っても、震災復興のプロセスでは、まず被災者自身が発注する自費解体が先行して行われ、より慎重に時間をかけて実行する必要のある役所による公費解体がしばらくすると始まり、だんだん加速化されていくのが一般的です。

しかし、今回の能登半島地震では、自費解体が全く先行しませんでした。これには理由がありました。能登では、過去の地震の際に自費解体を選んだ被災者が、業者から出された見積もりの法外さに気づかず施工して、あとで自治体に費用償還を請求した際に満額償還されず、役所と揉めるケースが多発したそうです。そんなこともあったので、今回、被災市町では住民の方々に、「自費解体は控えて、公費解体を待ってほしい」というアナウンスもされたと聞いています。

五十嵐:そこからどのようにテコ入れを行ったのですか?

浅野:まず取り組んだのは「安心できる自費解体」の確立です。「見積もりをもらった段階で市町役場に相談してから施工すれば自費解体も安心ですよ」と、自費解体をしても後で揉めないやり方を石川県と環境省でマニュアル化して、周知しました。それと並行して、公費解体についても、馳知事が県内の解体業界と話をつけまして、県外の事業者にもどんどん解体工事に参画してもらう流れを作りました。

次に着手したのは、環境省を巻き込んで、仕事の進め方や制度解釈のポイントの明確化でした。市町の行政マンにとって「国の敷居」は高いんですよ。制度解釈の疑問が生じたりするたび、それに応える確たる文書が流通しないと動かなくなります。そこで石川県から環境省に働きかけ、県が中心になって「公費解体加速化プラン」という総合対策の文書を1ヶ月でまとめ上げました。こうしてビジョンを明確にすることができて、そこから公費解体が一気に加速しました。

被災家屋の利活用・公費解体問題をめぐる対談の様子

解体の「アクセル」と保全の「ブレーキ」を同時に踏む

五十嵐:さまざまな働きかけによってスピードアップした公費解体ですが、同時にそこに対する問題意識も、当時からお持ちでしたね。

浅野:はい。撤去すべき建物を一刻も早く解体することは、復興を進める上で当然のことです。その一方で、所有者にとっても行政にとっても、「直す(修繕する)」という選択肢のプライオリティが低すぎるように、私の目には映りました。

公費解体は環境省が所管し、地方自治体でも主に廃棄物処理系の部局が担当します。そこは被災した建物を廃棄物処理の観点から扱うわけですから、「その後の街をどう作るか」「この建物は活かすべきではないか」という復興まちづくりの観点は入ってこないんです。「解体した古材の利活用」くらいは考えてくれるんですが。

また、「壊した方が得」という損得の面もあります。被災者生活再建支援金や加算支援金といった手厚い支援は整備されていますが、国の支援制度は修繕した人より解体した人に手厚くなる。「壊す」か「直して活かす」かという個人の意思決定に対して、政策はもう少しニュートラルであるべきなんですが、「壊す」方向に強く動機が働いてしまうんです。

浦:画一的な「スクラップ・アンド・ビルド」は、建築資材の高騰もあって経済的損失が大きく、環境にも良くありません。さらに、能登の貴重な街並みが失われる「文化的損失」も考えなければなりませんよね。

五十嵐:そうした問題も踏まえ、副知事はどのようなスタンスで公費解体に向き合っていったのでしょうか。

浅野:私が個人的に古い建築物が好きだということもありますが、解体と同時に、保全も進めるべきであるというのは、初めから考えていたことです。つまり「修繕できない建物は一刻も早く壊す」一方で、「活かせるものは活かす」という、アクセルとブレーキを同時に踏む作戦でした。

それで、そのための手立てを一刻も早く打たねばと思っていた矢先にお会いしたのが、浦さんたち「能登復興建築人会議」の皆さんでした。じっくりとお考えを伺ったところ、建築物や復興に対する考えや価値観が私とピタッと合って、「心強い味方になっていただける」と直感しました。

浦:私たちも同じです。副知事は「解体か、否か」という目の前の課題だけでなく、その先にある関係人口の増加、さらにはより大きな枠組みである「日本のこれからの震災対応のあり方」まで見据えており、こういう方がいるのなら、県と一緒になってやっていけるという確信を得ました。

  • 公費解体:災害により全壊・半壊した家屋などを、所有者に代わって自治体が公費で解体・撤去する制度。一方、「自費解体」は所有者が自ら業者に依頼して解体し、後から自治体からその費用の償還を受ける。
  • 能登復興建築人会議:令和6年能登半島地震を受け、石川県内の建築家や専門家らがワンチームとなって設立。建物の無料相談や休眠預金を活用した空き家の悉皆調査を実施する。後に一般社団法人化。
  • 被災家屋活用推進タスクフォース:石川県が主催し立ち上げた官民連携の会議体。被災した家屋を解体するのではなく、修繕や利活用の選択肢を広げるため、家屋の活用提案や、公費解体を申請しつつも、被災家屋の修繕・活用を検討する期間を設ける「留保」の周知など、実効性のある取り組みを推進。
  • 熊本地震:2016年(平成28年)4月に熊本県熊本地方を中心として発生した大地震。観測史上初めて、数日の間に最大震度7の揺れを2度(前震・本震)観測した。甚大な家屋倒壊やインフラ被害をもたらし、その後の災害対応や公費解体、復興プロセスなどは、以降の災害支援における重要な教訓・モデルケースとなっている。
被災家屋の利活用・公費解体問題をめぐる対談の様子

価値ある街並みを守るために
休眠預金の投入と「留保」という選択肢

「直して使う」道をつくる。専門家と民間資金が果たした役割

五十嵐:そうした経緯を経て、能登復興建築人会議が中心となる空き家調査や、利活用に対する休眠預金の助成が決まりました。「居住支援全国ネットワーク」が空き家の利活用に助成しようと思ったきっかけをお聞かせください。

立岡:まずは、能登復興建築人会議副会長である小津誠一さんのお話を伺い、「使える家屋は直して使うべきだ」というお考えに強く共感したことです。私も被災現場に伺い、避難所などで被災者の方と接してきましたが、「思い入れのある家でもう一度暮らしたい」、「そのために専門職の人に直接相談して、客観的な意見が欲しい」という声にたくさん触れていましたから。

五十嵐:そうした切実なニーズに対して、休眠預金という民間資金を活かそうと考えたわけですね。

立岡:はい。解体せずに家を残すためには、専門家による客観的な調査が不可欠です。さらに、「このケースは300万円」「このケースは500万円で直りますよ」という改修費用の具体的なモデルを見せることも重要であると考え、「空き家調査」に加え「改修工事費の補助」も助成事業のメニューに盛り込みました。

五十嵐:もう一つ、能登の被災地には「住まいの不足」という大きな課題もありました。

立岡:その通りです。能登には、ボランティアをはじめ、復興支援のために現地に入る人たちが滞在する場所が足りていません。支援者が毎日金沢から何時間もかけて通い続けている状況では、復興のスピードが上がらないのも当然です。

支援者の拠点を確保するためにも、「使える家屋を修繕して活用する」という理由付けができたため、これも助成メニューに組み込みました。

五十嵐:こうした助成を受け、能登復興建築人会議が中心となって空き家調査などを行ってきました。現場ではどのような葛藤や気付きがありましたか?

浦:実は、私たち建築士の中にも無意識の刷り込みのようなものがあるんです。「ここはもう壊した方がいいよね」と、ある意味で「安全側」に思考を持っていく方が楽なんですよね。

実際にそう判断している専門家もたくさん見てきましたが、一方で「こんなに立派なものを本当に壊してしまっていいのか?」という強い葛藤もありました。

五十嵐:解体という「楽な思考」に流されず、建物を残すべきだと考えたのはなぜですか?

浦:色々ありますが、能登の持つ本来のポテンシャルを知っていたことも大きな要因です。能登はかつて北前船などの海運業で潤い、さまざまな文化が流れ込む最先端の場所でした。戦災を免れたこともあり、上質な木材や伝統的工法を用いた、登録文化財級の立派な家屋が数多く残る「建築文化の宝庫」なんです。

立岡:実際に現地を見ると、大きくて立派な家屋が非常に多いですよね。

浦:ええ。それに加えて現在の能登は、この10年ほどでミシュランの星付きレストランが一気に増え、人口比で見れば金沢と同じくらいの数があるほど豊かな食や文化が根付いています。若い移住者も少しずつ増えていました。

歴史的な財産があると同時に、現代的な評価も高い地域だけに、高齢の方と、外から来た若い人で、能登に見出す価値に違いがあるのはある意味で当然です。だからこそ、「壊して更地にする」という流れに竿をさし、残せるもの、残すべきものは残したいという思いが、活動を進めるにつれて強くなっていきました。

被災家屋の利活用・公費解体問題をめぐる対談の様子

解体工事執行の「留保」は新たな制度ではなく「当然の権利」。

五十嵐:県は公費解体の加速化を進める一方で、2025年1月の会見で「公費解体を一度申請しても、その執行は留保できる」という方針を打ち出しました。一般的には、「解体ばかりが進むのはまずい」と、県が軌道修正したというイメージがありますが、実際はいかがでしょうか?

浅野:いえ、そこは違います。そもそも公費解体とは、公権力が建物所有者の要請を受けて、私有財産を合法的に破壊する仕事です。だから解体工事の執行をある程度留保してもらうのは「当然の権利」だと思います。だから「公費解体加速化プラン」を出したのとほぼ同じタイミング、つまり最初から、そのことを市町役場や住民にどう正確に理解していただこうかと思案してました。

しかし、そもそも公費解体には実施期限などないし、ある程度の期間なら執行の留保だって当然できる、という「制度の基本中の基本」について、残念ながら市町役場や住民の誤解を解消することができませんでした。私たちが公費解体加速化プランを出した時、たしかに馳知事は「熊本の時と同じぐらいのスピード感で、来年10月末をめどにとにかく解体を終わらせたい」という目標を掲げました。それはあくまで「目標・目安」でしたが、「県は2025年10月末までに公費解体をしろと期限を切っている」「それを過ぎたら公費で壊してもらえない」という誤解が拡散されました。市町の解体担当部局は「1日も早く解体作業を終わらせたい」わけですから、こうした誤解を増幅させるような説明を住民にした担当者もいたようです。そういう発信を目にしたら市町役場に個別に注意もしましたが、焼け石に水。

五十嵐:そうなると、住民サイドとしては「一度解体を申請したら最後、絶対に壊さなきゃいけない」と受け止めますよね。

浅野:はい。しかし所有者から「やっぱり壊さないでほしい」と言われれば、行政はその要請には従わざるを得ないです。「あなたは一度申請されたんだから、壊します」なんて、個人の私有財産を公権力が強引に解体するということは、常識ではあり得ません。

五十嵐:ということは、「留保制度」という新しい制度ができた、という解釈は正しくないのですね。

浅野:そうです。申請者側の「当然の権利」をあらためて強調したまでです。解体工事の執行を留保をお願いされたら、行政側がある程度の期間は留保するというのは、制度的に明文化されていなくとも、常識です。環境省にも「そもそも公費解体に期限はなく、必要ならば都度予算要求をするまでのこと」「一度申請があっても、必ず壊さねばならないわけではない」という考え方をしっかり確認し、文書化もしました。

市町側でこの点の誤解が続いたので、県としてそこを明確に表明する必要がありました。なので公費解体を推進するという「アクセル」を踏みながら、同時に留保という「ブレーキ」になる権利もあることを、きちんとアナウンスしてきたつもりです。

被災家屋の利活用・公費解体問題をめぐる対談の様子

行政を動かした民間資金
官民連携によるブレイクスルー

民間プレイヤーの連なりが、政策の土台に

五十嵐:冒頭でも触れましたが、今回の休眠預金活用事業を改めて振り返ると、NPOと行政のやりたいことががっちりと噛み合った、非常にレアで理想的な「官民連携」の形になったと感じています。

石川県が公費解体の「留保」を明確に打ち出し、タスクフォースの立ち上げから空き家調査が県の予算事業へと発展しました。さらに、内閣府を動かして「解体を留保しても仮設住宅に住み続けられる」という、柔軟な対応も示されることになりました。

浅野:結果的には建物所有者のご判断で、大した数の被災建物は救えなかったことは残念でしたが、こうした官民連携による調査や相談のサービスが機能したことには意義があったと思います。私の政策づくりの土台はいつも同じで、まずイシュー(問題意識)を共有して一緒にアクションできる仲間を、役所の内外にしっかりつくるところです。今回も浦さんや小津さんをはじめ、色々な民間側プレイヤーと一体のコミュニティを作ることなくしては全く機能しなかったでしょう。

五十嵐:立岡さんは、当初からこうした官民連携のダイナミックな展開をイメージした上で助成を進めたのでしょうか?

立岡:最初から明確な展開が見えていたというより、「支援プレイヤーの少なさ」に対する強い危機感が出発点でした。熊本地震や西日本豪雨の時と比べて、能登は支援に入るプレイヤーの数が圧倒的に少なかったんです。その状況下で、1つのNPOが単独で被災地に入っても、どうしても小規模な活動にとどまってしまいます。

だからこそ、休眠預金というまとまった資金を注入し、能登に対して強い思い入れを持つ人たちに届ける。それによって、「新たな支援プレイヤーを増やす」ことができるのではないかという思いが一番強くありました。

五十嵐:そういう意味でも能登復興建築人会議が採択された意義は非常に大きかったですね。

立岡:彼らは単に目の前の調査をするだけでなく、最初から「この活動をどう政策に結びつけていくか」という視点を持って事業をスタートさせていました。実際に彼らが現場を歩き、足で稼いできた空き家調査の「生のデータ」は、県の政策に反映させられる、非常に価値のあるものです。そうしたプロセスを見ても、今回は本当に素晴らしい取り組みをしていただいたと実感しています。

五十嵐:なるほど。休眠預金という民間資金の存在については、副知事はどのように捉えていますか?

浅野:当時は石川県庁に着任してまだ数カ月で、県庁内での予算の作り方がわからないタイミングでしたから、「休眠預金」という外部資金をもとにしてクイックに事業が滑り出したことは、ものすごくありがたいことでした。

というのも、県単独でゼロから予算化しようとすれば、「なぜ県がやらないといけないのか」みたいな、財政課内で連綿と引き継がれてきた「査定哲学」みたいなものを突破しないとならず、その押し問答でなかなかスタートできなくなります。しかし、「民間で資金調達(休眠預金)をして活動を始めている」という事実があれば、それだけで役所の財政課からの信用力が跳ね上がり、そのプロジェクトを加速し拡大する予算はつけやすくなります。担当部局が財政当局と向き合う上でのいわゆる「権威付け」としても、休眠預金の存在は非常に大きかったですね。

五十嵐:行政をうまく補う形で休眠預金がマッチングし、お役に立てたというのは、非常にうれしく思います。

浦:私たちの活動も、休眠預金があったからこそ実行できました。また、震災復興の状況は刻一刻と動いていくものですが、その中で「現場の状況に合わせて事業計画を変えたい」という私たちの声にも、柔軟にご理解を示していただきました。その点が、用途がガチガチに決められている一般的な補助金事業との大きな違いだと思います。

被災家屋の利活用・公費解体問題をめぐる対談の様子

目指すべき次なる復興フェーズ
全国へ向けた教訓と、未来をつくるKPI

現場の対話から「生きた政策」が
生まれる

五十嵐:官と民による協働については、浅野副知事はどのような実感をお持ちでしょうか?

浅野:最大の成果は、志を同じくする人たちに出会い、一つの目標に向けて協業する「場」を作れたことです。例えば「公費解体申請後も執行は留保できることを明確化する」というアイデアも、タスクフォースの会議の中で、市町とのやりとりを含むリアルな声が聞こえてきたからこそ生まれたものです。

立岡:そうしたプロセスを積み上げていくことで、発災初期の被災者へのアクションや選択肢の提示のあり方が変わりますよね。仮に今後、別の場所で同じような災害が起きたとしても、能登で得た知見を役立てていただけるはずです。

浅野:同感です。今回の事業で建築人会議さんにやっていただいた住宅資源調査のデータについては、その後公費解体に回ってしまった案件の消し込みをして、今時点で活用可能な住宅資源のリストを整理する作業を、今まさに進めています。

解体された家屋、最後まで残った家屋がどれくらいあるのかを明確にできれば、「残った建物をどう流通させるか」「誰に提供するのか」という、次の復興フェーズに向けた建設的な議論へと発展させることができます。

浦:私たちにとっても、官民連携はありがたい取り組みであり、現在は県庁だけでなく、珠洲市や七尾市などからも私たちのやり方を高く評価していただいています。

これからの課題は、調査したデータを活かして「エリアマネジメント」を実践していくことです。建物を単体で残すのではなく、その空き家にどのような道路が繋がり、周辺にどんな建物がどれくらい集積しているかといった「面」のデータを取り入れることで、より活用の幅が広がると思います。

被災家屋の利活用・公費解体問題をめぐる対談の様子

調査はあくまで「スタート台」。
見据えるべきはその先の未来

浅野:一方で、これは皆さんも同じ思いだと思いますが、県と休眠預金の合わせ技でやってきた調査が一通り終わり、その結果が実際のまちづくりに生かされて初めて「成果」と呼べます。ですから、今はまだスタート台に立ったところです。

例えば県では、珠洲市が次回2029年の開催を見込む「奥能登国際芸術祭」の能登半島広域開催化を検討し始めていますが、奥能登の圧倒的な「宿泊施設不足」をどう解消するかが大きな課題になっています。また二箇所居住人口を誘発する上でも、古民家を活かす取り組みや、防災目的のコンテナハウスの平時利用など、色々なものを組み合わせていく必要があります。

五十嵐:そうした復興プロジェクトに、今回調査した空き家データが重要なリソースになるわけですね。

浅野:その通りです。今回調査した空き家や古民家を「実際に何件生かすことができるのか」が、私のKPI(重要業績評価指標)になります。宅建業者に預け、流通させ、次なる投資へとつなげることが、本当の出口だと思っています。

浦:能登は被災前から過疎などの課題を抱えていましたが、本来はとても魅力的な場所です。「建物を残す」ことをフックにして街の魅力を再生し、建築以外の分野にも繋げていきたいと考えています。

五十嵐:最後に、今後の大規模災害に備える全国の自治体へメッセージをお願いします。

浅野:通常、自治体は「環境系(解体・廃棄物処理)」と「まちづくり系」の部局が縦割りで別部門になっており、公費解体の執行プロセスに「復興まちづくり」の視点で介入することは極めて稀です。だからこそ、復興支援の主体である市町の首長や各部局長たちが、この2つの価値観をいかに一本化し、束ねるかが重要です。

今回痛感したのは、県がいくら介入しても、市町側に「活かせる建物を壊さず活かそう」という明確な意思がなければ、もう全力で次々に解体されてしまうということです。

五十嵐:いざという時に縦割りを打破するリーダーの存在が、災害時にはより重要になるということですね。

浅野:はい。市町の側で部局の役割を超えて、「壊す必要のない建物まで壊さず活かす」と考え、実行する。市町のリーダー層がそうした旗を振ってくだされば、今回私たちがした苦労は繰り返されずに済むはずです。

五十嵐:休眠預金と官民連携によって、復興に向けた非常に良いベースとなるリソースができました。次期事業ではここまで得たデータを実際に生かして活用していくフェーズに入ります。

引き続き皆さまとしっかりと連携させていただき、能登の「良い復興の姿」を共に生み出していければと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。

対談参加者(浅野大介氏・浦淳氏・立岡学氏・五十嵐航氏)の集合写真

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災害現場で求められる
アウトリーチ型の復興支援。
休眠預金を活用した「士業相談」が示す、新たな官民連携

江﨑太郎氏(NPO法人YNF) × 三上豊子氏(珠洲市役所) × 朝川千春氏(能登町役場)

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